ロシアを代表するアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン。『話の話』『霧の中のハリネズミ』など数々の名作を生み出し、手塚治虫、宮崎駿、高畑勲監督ら日本の巨匠をはじめ世界中のアニメーション作家たちから敬愛されている。彼は30年以上の歳月をかけて、ロシアの文豪ゴーゴリの名作「外套」のアニメーション作品を制作しているが、未だ完成に至っていない。それどころか、近年は撮影が止まっているという。
2016年6月、カメラはモスクワにあるノルシュテイン・スタジオ“アルテ”に向かう。そこにはおびただしい数のスケッチ、キャラクターパーツ、埃をかぶった撮影台が…。 世界が待望する『外套』はいつ完成するのか、なぜ『外套』なのか。未完の映像を織り交ぜながら、ノルシュテインが自身の心の内を語る。
ゴーゴリの小説「外套」は帝政ロシア時代のサンクト・ペテルブルグが舞台の物語。
真面目で貧しい下級役人アカーキー・アカーキエヴィッチは、長い間着古し修繕不可能となった外套に別れを告げ、生活を切り詰めて貯めたお金で新しい外套を手に入れた。清書することが生き甲斐で、役所で目立つことがなかったアカーキーが、新調した外套を着ていくと、今まで仲間はずれにしていた役所の連中がこの話題で持ちきりになり、祝杯をあげる騒ぎになった。
ところがある夜、カリキン橋の上で追剝ぎに逢い、アカーキーは新しい外套を盗まれてしまう。失意のうちに死んだ彼は幽霊となり、夜な夜な盗まれた外套を捜しに現れた。
アカーキーは清書という仕事に、何か彩り豊かで快い自分の世界を見出していました。いくつかの文字は彼のお気に入りです。
そんな文字にやっとたどり着くと彼はすっかり昂奮してしまいます。
(小説「外套」より)
『25日-最初の日』(68)でデビュー。『キツネとウサギ』(73)『霧の中のハリネズミ』(75)『話の話』(79)等を制作。切り絵技法による、独特の詩的で繊細な作風が多くの人々を魅了し、映像詩人と評される。日本をはじめ世界中のアニメーション作家たちに多大な影響を与えている。30年以上の歳月をかけゴーゴリ原作『外套』を制作している。
私が興味があるのは、ゴーゴリの詩性、比類なき完璧なイメージ性だ
ゴーゴリ それは言葉の可塑性
ピカソ それは絵画の可塑性
わずかしか持っていない
貧しい人の行為の、いたましいくらいの細かさ
これを描きたい
私は自分が待たれていることについて
考えるのは好まない
期待されていることは
私にとって恐怖だ
要するに私は自分自身に
対する要求が高すぎるのだ
だから 納得できない映画は
作らなかった
この作品は私にとって
総てが新しいのだ
映画フレームの構成
キャラクターたちの行為…
もしかしたら大分前に発見されたことを
私の意識が再び発見しようとしているのかもしれない
ターニャ・ウスヴァイスカヤ
ノルシュテインスタジオのスタッフ
マクシム・グラニク
撮影監督
ラリーサ・ゼネーヴィチ
美術スタッフ
フランチェスカ・ヤールブソワ
ノルシュテインの妻、美術監督
ミハイル・アルダーシン
ノルシュテインの弟子
ミハイル・トゥメーリャ
ノルシュテインの弟子
クージャ(犬)
ノルシュテインの飼い犬
1952年生まれ。
日大芸術学部映画学科在学時より岡本喜八監督に師事。1982年、株式会社ふゅーじょんぷろだくと設立。まんがアニメ専門誌「COMIC BOX」を創刊。1998年、複合施設ラピュタビル(映画館・小劇場・レストラン)をオープン。映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」では邦画旧作上映に注力するとともに、国内外の短編アニメーションを集めた映画祭を開催。2006年「アート・アニメーションのちいさな学校」を開校、事務局長を務める。
1950年生まれ。
1972年日活に入社。1981年 森田芳光監督『の・ようなもの』でエディター昇格。劇場用映画140本以上を編集。平山秀幸監督『愛を乞うひと』滝田洋二郎監督『おくりびと』など、日本アカデミー賞最優秀編集賞を4回受賞。2009年度、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。後進の育成にも力を注ぐ。
黒沢明監督『椿三十郎』『天国と地獄』『赤ひげ』の撮影助手を経験。撮影監督として『連合艦隊』で一本立に。木村大作氏の後を継いで岡本喜八監督『近頃なぜかチャールストン』『ジャズ大名』など担当。大森一樹監督『ゴジラVSビオランテ』、津川雅彦監督『旭山動物園物語 ペンギンが空を飛ぶ』や大林宣彦監督『この空の花―長岡花火物語―』他5本を手掛ける。杉田成道監督『ラストソング』で第18回日本アカデミー賞優秀撮影賞受賞。クロード・ガニオン監督『ケニー』はモントリオール世界映画祭グランプリに輝く。
上映劇場が変更となる場合がありますので、鑑賞の前に必ず各劇場にご確認ください。
地域 | 劇場 | 公開日 | 前売券 |
---|---|---|---|
北海道 | シアターキノ | 上映終了 | ○ |
東京都 | シアターイメージフォーラム | 上映終了 | ○ |
東京都 | 東京都写真美術館 | 上映終了 | |
東京都 | ユジク阿佐ヶ谷 | 上映終了 | |
神奈川 | 横浜シネマリン | 上映終了 | ○ | 栃木 | 宇都宮ヒカリ座 | 上映終了 |
新潟 | シネ・ウインド | 12月7日(土)-12月20日(金) | |
長野 | 松本CINEMAセレクト | 順次公開 | |
愛知 | 名古屋シネマテーク | 上映終了 | ○ |
大阪 | シネ・リーブル梅田 | 上映終了 | ○ |
京都 | 京都シネマ | 上映終了 | ○ |
兵庫 | 元町映画館 | 順次公開 | 石川 | シネモンド (金沢) | 上映終了 |
広島 | 横川シネマ | 9月22日(日)-9月29日(日) | |
福岡 | KBCシネマ | 上映終了 | |
大分 | シネマ5 | 上映終了 | ○ |
コメント
Comment
他人が見た夢の話には、いくら言葉を尽くされても触れることができない、彼だけが味わっただろう感触が潜んでいる。
この映像を通じて、ノルシュテインの見る夢を、ほんのかすかに垣間見る。
わたしたちに許された、小さな小さなのぞき窓。
― 片渕須直
アニメーション監督/『この世界の片隅に』
デッサンの素晴らしさに、なんども胸がぎゅうっと締め付けられました。
人の悲しさと不器用さを、暗闇の中、小さくて愛おしい光に当ててきた彼の手を、私は食べてしまいたいくらい、ずっと見つめていたような気がします。
― 前田エマ
モデル
アカーキィ・アカーキエヴィチに命を吹き込む行為、ユーリーの高い創作の理想は、
ソ連崩壊後の厳しい状況に対する心の支えになっている。
彼の大きな生きる信仰を奪い去る、完成を望む権利は誰にもない。
― 山村浩二
アニメーション作家、絵本作家
見ず知らずの他人を妬み、富に憧れることが息を吸うように当たり前となっている時代を生きている私たちは、ノルシュテインの言葉に、ハッとするだろう。
これは、ノルシュテインによる、今も進行形の映画『外套』の新たな「上演」である。
― 土居伸彰
新千歳空港国際アニメーション映画祭
フェスティバル・ディレクター